東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)132号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実、審決の理由の要点中1(本願発明の要旨の認定)、2(各引用例の記載の認定)、3(本願発明と第一引用例のものとの一致点と相違点の認定)及び4(相違点に対する判断)のうち、相違点<1>、<2>に対する判断並びに請求の原因四の1の(一)及び2の(一)はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこで審決の取消事由について検討する。
1 審決の取消事由その一について
(一) 技術分野が相違するとの点について
原告が、請求の原因四の1の(一)及び2の(一)に主張する事実は、前叙のとおり当事者間に争いがなく、右事実によると、パイルとパイプ(管)とは原告主張のとおりそれぞれその用途を異にし、従つて、右用途の差異に基づいて要請される性能も異なるものであることは明らかである。
しかし、前記当事者間に争いのない請求の原因二(本願発明の特許請求の範囲)及び審決の理由の要点2、3からも明らかなとおり、本願発明の鋼管コンクリート複合パイルと第一引用例の合成鋼管とは、いずれも鋼管とその内部に遠心力成型により締め固められた膨張性の中空コンクリートからなる点においては構造上同一であり、従つて、両者は共に原材料として鋼管及び膨張性コンクリートを用いるものであること並びに製造工程として遠心力による締め固め及びコンクリート蒸気養生を行う点で差異がない。そして、成立に争いのない甲第三号証によると、第一引用例は「配管」と題された書物であることからパイルに関する記載はないが、成立に争いのない甲第六号証によると「コンクリート製品」と題された書物である第四引用例の四七頁右欄「コンクリート製品関係」の項には、被告が主張する<4>の記載があることが認められ、この記載はコンクリートパイルや合成鋼管についての記載に外ならないのであり、また、成立に争いのない甲第一四号証(「コンクリート製品便覧」社団法人セメント協会発行)によると、右書物にも各種のパイルに関する事項(八〇頁以下)と合成鋼管に関する事項(一九四頁以下)が併記されていることが認められる。
右認定の事実によれば、パイルとパイプ、特に本願発明のような鋼管コンクリート複合パイルと第一引用例に記載のような合成鋼管とは、共に土木建築関係における構造物ないしその素材として同じであるばかりでなく、外部的形態やその製造過程を共通にする極めて近似の関係にあるものであることが明らかである。そうしてみると、両者はその技術分野を共通にするものであるということができる。
よつて、右両者が技術分野を異にし第一引用例は本願発明の進歩性を判断する上での先行技術文献とはなし得ないとする原告の主張は到底採用することができない。
(二) 第一引用例には本願発明の技術的課題やその解決手段が示唆されていないとの点について
前掲甲第三号証によると、第一引用例は前記のとおり「配管」と題された書物であるところから、これにはパイルに関する記載は見当らず、従つてパイルに要求される軸長手方向に作用する応力に耐える能力を向上させることについての記載も見当らない。
しかし、同引用例の五〇頁左欄一六~一九行及び同頁左欄四一行~右欄一行にはそれぞれ被告主張の<1>及び<2>の記載があることが認められ、これらの記載によれば、鋼管内部に膨張剤を使用した膨張性コンクリートを使用すると、ケミカルプレストレスにより鋼管とコンクリートとの付着力が増大し、衝撃などに対する強度が高まるものであることが明記されているということができる。
また、前掲甲第六号証によると、第四引用例の四四頁には、被告主張の<3>の記載があることが認められ、右<3>の記載によると、膨張性コンクリートを拘束してケミカルプレストレスコンクリートとした場合には、これにより曲げ強度が大きく改善されること及びその場合膨張剤(アサノジブカル)の混和率を高めると高いプレストレスが発揮されることが明示されており、また同引用例の四三頁本文左欄一~六行には、アサノジブカルの混和率を大きくして膨張コンクリートを拘束すれば、ケミカルプレストレスによりコンクリートが密実になるので圧縮強度も高くすることができることが記載されており、更に同引用例には前記のとおり被告主張の<4>の記載が認められるところ、この記載によるとコンクリートをコンクリートパイルに利用した円筒形のコンクリートを鋼管などで外周を拘束すれば、ケミカルプレストレスを効果的に導入することができるものであるとして、例えばコンクリート充填鋼管柱などが明示されているのである。
そしてみると、第一引用例及び第四引用例の前記記載を併せみれば、パイルの強度、特にその性質(機能)に鑑み軸長手方向に作用する応力に耐え得る能力を向上させようとする本願発明の技術的課題や鋼管とコンクリートからなる複合パイルにおいて膨張性コンクリートを使用するというその解決手段が両引用例に示唆されているものと認められる。なお、審決は、相違点<3>の判断に当たり、第一引用例のみを引用したものでないことは前記審決の理由の要点に照らして明らかである。
(三) そうすると、審決の相違点<3>に対する判断が誤つているとの原告主張の審決取消事由その一は採用することができず、外に右判断が誤つているとすべき証拠はない。
2 審決の取消事由その二について
(一) 鋼管とコンクリートとの複合パイルにおける圧縮強度、引張強度、曲げ強度など諸種の強度は、これに用いられる鋼管の径や肉厚及びその内側に装填されるコンクリートが中空コンクリートである場合にはその肉厚の各値によつて左右されることは明らかであり、また、膨張性コンクリートは前記認定のとおりコンクリートに混合される膨張剤の混和率によつてもその強度(曲げ強度等)が異なるものである。
ところが、前掲本願発明の特許請求の範囲によれば、本願発明の鋼管コンクリート複合パイルは、右のような鋼管の径や肉厚、その内側に装填される膨張性中空コンクリートの肉厚及び右コンクリ―トに用いる膨張剤の混和率などについては全く限定のないものである。
(二) 成立に争いのない甲第二号証の一、二によると、本願明細書の添付図面第四図(別紙(一)図面)は、鋼管の径が五〇〇mm。肉厚九mmのものを用いた本願発明のパイルと肉厚九mmと一二mmの各鋼管パイル(コンクリートが装填されていないもの)、充填型鋼管コンクリートパイル及び従来のACパイルとの軸力と曲げモーメントの関係(M―N図)が記載されており、同第五図(別紙(三)図面)には鋼管の肉厚九mm、コンクリートの肉厚五六mmの本願発明のパイルと充填型鋼管コンクリートパイル(鋼管の肉厚九mmのもの)、鋼管パイル(同一二mmのもの)及び従来のRCパイル(コンクリートの厚さ65mmのもの)とACパイル(同)のたわみの状況が記載されていることが認められ、右の場合本願発明のパイルが他のパイルに比較して強度特に曲げ強度に優れていることが示されている。
しかし、本願発明は前記(一)に述べたところによつて明らかなとおり鋼管の径や肉厚、コンクリートの肉厚や膨張剤の混和率などについて何らの限定がないものであるから、右各図面に記載のデータは本願発明の一つの実施態様における効果というほかはなく、右に記載されたところが本願発明の構成上等しく奏せられる作用効果であるとすることはできない。また、鋼管とコンクリートからなる複合パイルが鋼管のみのパイルあるいは鋼管のないRCパイルやACパイルと比較して、一般に強度が高まることは当然のことである。更にまた、前記第四、第五図において本願発明のパイルと対比して示されている充填型コンクリートパイルとRCパイル、ACパイルに用いられたコンクリートがどのような組成からなりまたどのような工程を用いて製造されたものであるかなどその具体的前提条件については明細書に記載がないので明らかでない。
そうすると、前記第四、第五図とこれに関する本願明細書の記載から直ちに本願発明が第一ないし第六引用例に記載された技術事項から予測することのできない顕著な作用効果を奏するものであると認めることはできない。
(三) もつとも、前掲甲第二号証の二によると、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の目的及び一般的な効果について、「本発明の複合パイルは鋼管とコンクリートとの付着を強め一体化を促進する目的でコンクリート原料に予め膨張性混和剤を添加する。……これらの混和剤を添加することによりコンクリートは膨張して鋼管との一体化を強め、鋼管端部に透孔円盤を固着することにより膨張性コンクリートの端部からの逃げを防止することが可能となり、……引張り応力に対しても強くなるとともに、この状態で高温高圧蒸気養生されているので、より一層鋼管とコンクリートの一体化を強め、コンクリートも強度(例えば圧縮強度)を増加する。」(同号証五頁一六行~六頁一二行)と記載されていることが認められる。
しかし、第一ないし第六引用例に審決認定の記載があること及び本願発明において透孔円盤を用いた点に関する審決の相違点<2>に対する判断については前記のとおり当事者間に争いのないところである。そして、第一引用例及び第四引用例には、前記2の(二)に詳述したとおり、膨張性コンクリートを鋼管によつて拘束すると、ケミカルプレストレスによつて鋼管とコンクリートの付着力が増大し、また、コンクリートが密実になるので、曲げ強度や圧縮強度など衝撃に対する強度が増大することが記載されているのである。
これらの事実によれば、本願明細書に記載されている前記作用効果は第一ないし第六引用例特に第一及び第四引用例と審決の認定する周知技術とから容易に予測できる程度のものであることが認められ、外に本願発明の作用効果が右予測の範囲を超える格別のものであることを窺う証拠はない。
(四) よつて、原告主張の審決取消事由その二も採用することはできない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決には違法の点がない。
三 よつて、原告の本訴請求を棄却する。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
鋼管とその内部に装填され、遠心力成型によつて締め固められ、高温高圧蒸気養生により膨張した膨張性の中空コンクリートとからなり、かつ鋼管の両端部には鋼管外径と等しい外径を有する透孔円盤が設けられてなる鋼管コンクリート複合パイル。